世界初?耐水害住宅?
この記事はこんな人にオススメ!
この記事を読むと分かること
耐水害住宅の素晴らしき仕様!
災害に備えるということ
毎年のように発生し、年々増加する豪雨や台風による水害被害。
この度一条工務店から洪水などの水害に耐える住宅が発売されました。
水害が発生したことにより住宅に一定の被害があるのは仕方ないとして諦めるのではなく、『水害に挑む』という会社としての姿勢が非常に好感が持てます。
世界初の試みとなる耐水害住宅ですが、いったいどのような仕組みで水害から住宅を守るのか、徹底的に解剖していきたいと思います。
耐水害住宅とは?
世界初の試みとなる耐水害住宅。
住宅の水密性を高め、水害から住宅を守るという発想から生まれました。
住宅が水害被害の合う可能性のある4つの危険なポイントを定めて、それらのポイントへ対策を施した住宅のことを耐水害住宅と呼んでいます。
一条工務店は数年前から耐水害住宅の開発を進め、2019年10月2日に防災科学技術研究所と共同で耐水害住宅の性能を確かめる実験を行いました。
2020年10月にも再度耐水害住宅の性能検証実験を行い、話題となりました。
1時間当たり300mmの豪雨を再現できる世界最大級の降雨施設の貯水槽内に一条工務店の開発した耐水害住宅と一般的な住宅を2棟建設し、洪水を人為的に発生させることでそれぞれの状況を観察・記録し性能の検証を行いました。
実験についての詳細は一条工務店の公式YouTubeチャンネルで公開されているのでそちらを参考にしてみてください。
一般的な住宅は貯水槽内の水位が上がるにつれて住宅内部に水が浸入し、最終的には床上浸水してしまいました。
一方で耐水害住宅は水深1.3mでも住宅内に水が侵入してくることはなく高い水密性があることを証明しました。
では、どのような仕組みで高い水密性を確保しているのか、耐水害住宅の謎について解説します。
①浸水対策
一条工務店は4つの方法で浸水対策に取り組んでいます。
技術的に目新しい点は特にないですが、これまで培ってきた一条工務店のノウハウを生かした浸水対策を行っています。
住宅全体の浸水対策として【透湿防水シート】を外壁面全体を包み込むように施工することで水密性を高めています。
更にシートのジョイント部やシートと基礎の接続部分には専用接着剤で水密性を確保。
床下からの浸水は【フロート弁付床下換気口】で対策。
普段は床下に外気を取り込む換気口として働き、水害発生時には水の浮力によってフロート弁が浮くことで弁に蓋されるために床下への浸水を防ぐというもの。
換気口の前面にはステンレスの網を設置してあるため、ゴミなどによってフロート弁が動作不良を起こすことを未然に防ぎます。
1階の掃き出し窓には水密性の高い開き窓を採用。
開き窓はあらかじめ工場で施工することで施工業者によるバラつきを抑え防水性能をUP。
高い水圧にも耐えられるように5㎜厚の【強化ガラス】を採用(一般的な一条工務店の住宅に使用されているサッシと同様のものを使用)。
防水性能を高める観点から引き違い窓は採用できず、開き窓のみの採用となります。
窓や玄関の水密性をより高めるために自動車にも採用されているパッキンを応用した【中空パッキン】を開発。
水によって玄関や窓枠が押し付けられるほどパッキンが押し潰され隙間をなくすため住宅内への水の浸入を防ぐことができます。
②逆流対策
水害によって水かさが増すと怖いのが下水の逆流。
せっかくフロート弁付床下換気口で床下からの浸水対策を施しても、下水が逆流してトイレやお風呂から水が溢れ出しては元も子もありません。
そこで開発されたのが【逆流防止弁】。
床下の排水管に自動で弁が閉じる逆流防止弁を採用することで、万が一下水が逆流してきても弁が蓋になることで下水が家の中に逆流してくることを防ぎます。
詰まりや破損が発生した時は上部の点検口から簡単に交換を行うことができます。
弁の詰まりは下水が流れないことで分かったとしても、弁の破損はどのようにして判断するのでしょうか、気になるところです。
③水没対策
エコキュートの水没対策はポンプや電磁弁などの電気動力部品、基板や電源などの電気・電子部品を本体上部に配置することで対策。
タンク内の水を生活用水として使用できるように一条工務店が専門メーカーと共同開発しました。
室外機、蓄電池、外部コンセントの水没対策は設置位置を高くすることで対策。
水没するなら上げてしまえ!というのが一番安価で済む対策ですね。
防水カバーを着けて見積金額が上がるならばそっちの方が嬉しいですね。
④浮力対策
一般的に住宅は、一定の水位を超えると住宅全体の重量を超える浮力がかかるため、家が浮き始めます。
昨年の10月に行われた公開実験では水深1.3m、床上70㎝時点で住宅内に水の浸入は発生せず、実験結果から水密性能は保証されました。
しかし、この場合の住宅の保証は【浸水・逆流・水没】に着目した場合に限ります。
実際は公開実験が終了した後も、非公開で実験は続けられ、その結果、水位が1.8mに達した時点で耐水害住宅が浮くことが確認されました。
そこで一条工務店は浮力の対策として2つの仕様を開発しました。
スタンダードタイプ
一条工務店は浮力に対して重量で耐える仕様をスタンダードタイプとしています。
屋外の水位が一定に達すると、「床下注水ダクト」から床下にあえて水を入れて重りにすることで浮上を防ぐ仕様。
こちらの仕様の場合は、ダクトから注水された水の量が床下の容積を超えると床上浸水するリスクがあります。
注水ダクトの取水口を超えた時点で床下への注水が始まります。
注水ダクトから続々と水は入り続けるため、水位が1.0mを超えた時点で床上浸水の可能性があります。
それでも、1.0m程度の水害に耐えることができる住宅ということで耐水害住宅としては十分な性能を持っていると言えます。
建物の浮上を防ぐために基礎に浸入した水は基礎に設置された水抜き穴から簡単に抜くことができます。
浮上タイプ
水害の被害が大きいと予想される地域向けに開発された浮上タイプ。
家の4隅に【係留装置】を取り付けることで、万が一浮力によって住宅が浮いてしまった場合でもその位置に住宅を留めておくというぶっとんだ仕様。
係留装置によって、仮に浮上しても住宅の位置がコントロールされているため水が引いたときはほぼ同じ位置に着地します。
まるで船のような仕様。
住宅を船のようにしてしまったケースは知る限りでは一条工務店が世界初で、おそらくこれからも現れることはないだろうと思います。
住宅は本来は浮かないものですし、浮いてはいけないものです。
水害によって住宅が浮いてしまっても、それは仕方ないとして諦めるのが一般的なハウスメーカーです。
係留装置は地表面と同じ高さに設置され、普段は化粧砂利などで隠すことは可能です。
係留装置と住宅を繋ぐポールの長さは打ち合わせ時に施主と相談して設定され、一条工務店側では特に設定されていません。
素朴な疑問ですが、浮いて着地する際に住宅と地面の間に異物があった場合はどうなるのでしょうか。
今年の10月13日に行われた公開実験では3.0mの水位でも浮上タイプは住宅内に水の浸入を許していません。
3.0mの水位でも浸水しないのは前代未聞でただただ凄いです。
しかし、3.0mの水位に達成する水害が発生した場合は仮に住宅が無事でも周辺地域は大変な状況になっていると思うのですが、それはまた別のお話ですね。
耐水害住宅の価格について
耐水害住宅ですが、積雪1.5m以下地域では2020年9月1日の防災の日から発売は始まっています。
住宅の平均的な大きさである35坪の場合、42万円のオプション料金で施工可能。
万が一に備えるという観点からみると、非常にお得な価格設定だと言えます。
浮上タイプのオプション設定料金やオーバースペックぶりから見て、過去に水害被害が甚大であった地域でない限りは設計士の方からオススメもされないように感じます。
耐水害住宅の課題について
仕様の制限
耐水害住宅は2倍耐震(建築基準法で定める耐震性能の2倍の性能)の強度にする必要があり、枠組壁工法を採用しているi-cubeやi-smartなどの住宅でしか採用できません(グランセゾンでは採用不可)。
※2022年1月から販売開始されたグラン・スマートでは採用可能
1階部分の窓は開き戸しか採用不可などの制約があります。
施工上の問題
次に課題となるのは施工時のバラつき。
もちろん、一条工務店側も施工時のバラつきをできるだけ抑えるために工場で組み上げられる部分は組み上げて出荷しています。
しかし、現場で組み上げる職人のレベルなどによって多少のバラつきが生じるのは自明の理。
この少しのバラつきから亀裂が入り、住宅内に水の浸入を許してしまう可能性もないとは言い切れません。
何よりも恐ろしいことが水害が実際に発生してみないと本当に耐水害住宅として機能するか判らないという点です。
耐水害住宅の理想は『住宅に水が浸入するような穴が生じていないこと』。
穴の有無は気密測定によって測ることができます。
気密測定では住宅にある隙間の大きさを測定します。
C値と呼ばれる気密性能を示す指標が0であること、もしくは限りなく0に近いことが求められます。
気密性が上がるということは光熱費の削減にも繋がります。
C値などについての住宅の性能指標については別記事で紹介しています。
参考:C値・Q値・Ua値 住宅の性能指標について
漂流物や不測の事態への対策
今回の公開実験では想定されうるゲリラ豪雨であったり、水の流速は川が氾濫したことを想定し秒速1.0m/s強に設定され、実験が行われました。
しかし、現実では堤防の決壊による激流や倒壊した木々や車が住宅に衝突することによって窓ガラスが割れることなどの不測の事態を防ぐのが難しいことが課題としてあります。
水害が発生した場合の施主側の対応
一番の課題が施主側の水害発生時の対応。
一条工務店側ではコントロールが行えない部分です。
耐水害住宅は水害時の住宅へのダメージを最小限に抑えることを目的に開発されています。
水害発生時に住宅をある程度守る保証はしますが、そこに住んでいる人の生命の保障はしてくれません。
一条工務店の販売しているのは【水に強い家】であって、【水害から生命を守る家】ではありません。
避難勧告が出ているけど大した雨じゃないし、避難しなくても大丈夫でしょう。
耐水害住宅に住んでいるし…
もしも水害が発生した場合に耐水害住宅に住んでいるからといって避難をしなかったり、避難に遅れることで住民が被害に合うことを一条工務店側では考慮していません。
一条工務店側も水害発生時は避難を優先することを公式ページで伝えています。
恐らく打ち合わせの段階や引き渡しの際にも営業担当の方からその辺りのことは丁寧に説明されるはずです。
「耐水害住宅に住んでいるから避難しなくてもよい」という風に施主側が思い込み、後の被害につながることを一条工務店側は望んでいません。
水害が発生する可能性があるときは避難を第一優先とし、その後に帰る住宅があるという安心のために耐水害住宅の採用を検討しましょう。
【まとめ】耐水害住宅について徹底紹介
これまで一条工務店で培われてきた技術を水害対策に応用し、注水タイプの場合は1.2万円/坪と比較的お得な価格で採用することができます。
一条工務店の公式Youtubeチャンネルの耐水害住宅の実験で示されるようにしっかりと水害への対策を行えば水位3.0mにも耐えられることが分かりました。
いくつかの課題はありますが、それらを考慮しても耐水害住宅を開発し、それを販売する一条工務店の姿勢には感心せざるをえません。
一条工務店は水害が表面化するずっと以前からきっと耐水害住宅の開発を先駆けて行っていたのだと思います。
企業努力に感謝するとともに、耐水害住宅が普及し水害発生時に少しでも住宅への被害が減少することを願っています。
コメント
スタンダードタイプでの床上浸水までの水位の件です。
注水ダクトの取水口を1.0mと仮定した場合、取水口の高さである1mを超えるとダクトから床下へ続々と水は入り続けるため、基礎の高さ42cmは加算して計算に組み入れるものではないと思うのですが。すなわち床上浸水はダクト取水口までの高さで定義されるものかと。
確かにお弟子さんのおっしゃる通りですね。
ご指摘ありがとうございます。
記事の訂正を行わせていただきます。