
- 題:完全なるチェックメイト
- 監督:エドワード・ズウィック
- 公開年:2014年
- 主演:トビー・マグワイア
- 点数:78点(100点満点中)
”完全なるチェックメイト”はチェスの天才であるボビー・フィッシャーの狂気100%の映画です。
実話を基に作られた映画ですので、びっくりするような演出はありません。
しかし、それ故にフィッシャーの異常性が際立っています。
物語はフィッシャーがチェスの世界王者になり、その当時のソ連の絶対王者であるボリス・スパスキーと対戦するまでとその後を描きます。
対戦の様子などは淡々と描かれ、どちらかというとフィッシャーはどのような人物であったのかということをテーマに物語は進んでいきます。
ですので、チェスのルールが分からない方でも楽しめる映画になっています。

私自身、チェスのルールを全く知りませんでしたが映画を楽しむことができました。
本記事では”完全なるチェックメイト”のあらすじと私のレビューを中心に、またフィッシャーの人間性について考察を交えながら書いていきます。
完全なるチェックメイトのあらすじと感想
ボビー・フィッシャーについて
”完全なるチェックメイト”のあらすじ

アメリカ、ソ連が世界を二分していた冷戦時代。
1972年にアイスランドのレイキャビクで開催されたチェスの世界王者決定戦は、両国の威信をかけた”知の”代理戦争、盤上の戦争として世界中の注目を集めていた。
タイトルを34年間保持してきたソ連の絶対王者ボリス・スパスキーへの挑戦権を獲得したのは、アメリカの若きチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャー。
フィッシャーはIQ187を誇る天才で15歳にして最年少グランドマスターとなった輝かしい経歴の持ち主。
しかし、その行動は突飛で制御不能。謙虚さのカケラもない自信家で、自分の主張が通らないと大事なゲームすら放棄する。
世紀の対局一局目、スパスキーに完敗するフィッシャー。
残り二十三局、絶対不利と見られたフィッシャーは極限状態の中、常軌を逸した戦略を打ち立てる。
二大国家の大統領もフィクサーとして影で動いたと言われる、歴史を揺るがす世紀の一戦で生まれた、今尚語り継がれる<神の一手>の真実とは!
”完全なるチェックメイト”の感想

あらすじだけを見ると、世紀の対決に焦点を当てているように見えますが、実はそうではありません。
試合の外でフィッシャーの身に起こるエピソードを中心に、フィッシャーはどんな人物であったのかを掘り下げています。
この映画の根底には「天才と狂気は紙一重」というテーマがあり、フィッシャーの異常性を視聴者である私達が追体験をするような描写がところどころに出てきます。
フィッシャーの異常性
フィッシャーは聴覚過敏で、精神障害を持っていた描写があります。

この聴覚過敏の描写が結構しんどくて、時計の針の進む音やカメラの音、フローリングの上を人が歩く音、まるで自分が聴覚過敏になっているかのよう錯覚を引き起こします。
アメリカ政府やユダヤ人組織から陰謀やスパイ行為を受けているなどと思い込む被害妄想。
世界戦ではカメラや観客の物音がうるさいといって試合を放棄したり、部屋の中に盗聴器がないかくまなく調べたりとフィッシャーの狂気染みた部分を映画では描写しています。
また、それらフィッシャーの異常性は先天的なものではなく、「環境」による後天的なものだと思わせるように描かれています。
チェスというギリギリの勝負の世界に身を置いてたから徐々におかしくなっていったという部分もありますが、幼少期の母親との関わりによってフィッシャーの異常性は確立されたように思います。
彼の異常性の元凶は幼少期の頃の映画の描写に表れています。
彼のアパートの前には常に車が止まっていて黒装束の男たちが、監視していました。
毎夜の様にパーティを開いている母の元へ監視されていることを知らせに行くのが幼いボビーの役目でした。
監視されているのはフィッシャー一家がロシアのスパイだと疑われていたからです。
この頃に植え付けられた常に監視されているという状況が、後にフィッシャーが被害妄想を発症するトリガーとなっています。
後に成長したフィッシャーが自分の母親に対して「チェスに集中したいから家から出て行ってくれ」とワガママを言います。
母はそれに応じて、本当に家を出ていきます。
フィッシャーには愛してくれる人がおらず、「孤独」になります。
だからこそこれまで以上にチェスに打ち込み、一人でひたむきにチェスと向き合う姿は感動しました。
フィッシャーがただの天才だからチェスが強いのではなく、その裏側には弛まぬ努力があったというのが、フィッシャーのチェスへの異常な執着と人間性を感じることができて好感を持てました。
世紀の一局へ
そういった異常性の反面で、表舞台ではチェスの栄光の階段を駆け上がっていくフィッシャー。
勝利へのプレッシャーと被害妄想によってフィッシャーの脳は徐々に壊れていきます。
しかし、おかしくなっているのはフィッシャーだけでなく、世界王者のスパスキーも同じだったのです。
やはり、国の威信をかけた対戦に並大抵の精神では耐えれるはずがありません。
フィッシャーは第1局でスパスキーに大敗を喫し、2局目は試合を放棄します。
しかし、3局目ではキッシンジャーからの直々の依頼で対局の場に現れます。
自分を政治に持ち出すなというフィッシャーでしたが、キッシンジャーからの直々の依頼には嬉しそうでした。
そして迎えた3局目でフィッシャーはスパスキーに勝利します。
そして、試合は淡々と進み、迎えた6局目。
今なお最高の一戦と語り継がれる世紀の一局。
フィッシャーは「クイーンサクリファイス」という戦術に出ます。

クイーンは取られたらほぼ負けというくらいに重要な駒ですが、それを捨て駒にします。
しかし、映画上の演出では戦術の解説もないので、チェスを知らない私は何が起きているか分かりませんでした。
対戦相手であるスパスキーが立ち上がりフィッシャーの一手に拍手をしたことから「きっとすごい手なんだろうなぁ」と素人目線で感じたくらいです。
でも、それで良かったと思います。
この映画のテーマは「天才と狂気は紙一重」。
チェスの対局を見ているのではなく、フィッシャーの人生を追体験しているのですから、戦術の解説は余計なお世話です。
そんな世紀の一戦後にフィッシャーが放った言葉はチェスだけでなく、人生にも通ずるものがあります。
映画の作り手もきっとこれを伝えたかったんだろうと思います。
全ては理論と記憶なんだ。たくさん選択肢があるように思えるけど、正しい手は一つだけしかないんだ。
人生においても選択肢は沢山用意されているけど、自分にとって本当に正しいことは一つしかない。何だかしびれますね。
世紀の一局の後はテロップでフィッシャーがスパスキーを下して世界王者になったこと。
その後、精神状態は余計に悪化し、チェス界から姿を消したこと。
最終的にアイスランドに亡命して、2008年に死去したことが説明され、映画は終了します。
まとめ:”完全なるチェックメイト”について

「天才と狂気は紙一重」
フィッシャーのひたむきにチェスに向き合う孤独な姿と徐々に壊れていく彼の脳。
ワガママな天才になかなか感情移入できないこと、チェスの勝負という動きの乏しさに盛り上がりに欠けるような感じがしないでもないですが、フィッシャーという一人の天才の人生はこうだったんだとまざまざと見ることができて映画の内容としては面白かったです。
ただ、全体的に視聴している私達に内容を考察させようとしている点はもう少し改善の余地があったのではないかと思います。
実話を基にしているので裏付けをはっきりさせるとか…
腑に落ちない点もありましたが、それが逆にノンフィクションらしさを感じる部分で良かったのかと感じます。
天才で孤独で不器用なまでに人生の極限の淵を歩いたフィッシャーの苦悩と葛藤は、繊細で努力を惜しまない人ならば共感できるはずです。

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